User MeetUpレポート②:「DX・データ活用によるESとCSの相互向上を通じて戦略的なホテル経営にシフトするために」

TrustYouでは、年に一回ユーザーの皆様と、クチコミのトレンドやTrustYouの活用方法を勉強する“ユーザー様向け勉強会(通称:ユーザー会またはUserMeetUp)” を開催しています。2021年は11月10日と17日に、オンラインで開催、本ブログでは、その内容の一部をご紹介いたします。

11月10日の勉強会は「DX・データ活用によるESとCSの相互向上を通じて戦略的なホテル経営にシフトするために」と題して開催。第二部は、ゲストスピーカーに東芝デジタルソリューションズ、リカイアス技術部のエバンジェリスト、香川 弘一氏をお迎えしました。

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以下、対談の内容をご紹介します。

設楽:香川様、本日はお越しいただき、ありがとうございます。早速ですが、自己紹介をお願いいたします。

香川様(以下、敬称略):東芝デジタルソリューションズの香川と申します。6年前に弊社のAIの新規事業を開始することになり、プロジェクトのエバンジェリストに任命されました。AI(人工知能)を遠くにある存在と感じられている方も多いかと思いますが、そこをできるだけわかり易く説明させていただくことがエバンジェリストとしての役割となります。

設楽:確かにAIは遠い存在に感じられますが、最近ですと、音声検索でAmazonのAlexaやAppleのSiriなどを使用するケースも増えてきていますね。AIというワードはよく耳にしますが、まだ、実際のビジネスの現場や業務改善においては、まだそこまでのインパクトを与えてないかもしれません。ぜひ、どのような取り組みをされているのか、お聞かせください。

香川:本日ご紹介する、私たち東芝グループの音声AIサービスには、“RECAIUS(リカイアス)”という名称をつけさせていただいております。これは “理解する私たち”、つまり「私たちを理解するAI」を目指しているという造語になります。本日は、RECAIUSのサービスのひとつである、「フィールドボイスインカム」を主にご紹介させていただきたいと思います。

宿泊業の皆様は、業務の中で、IP無線やトランシーバーを使われている方もいらっしゃると思いますが、RECAIUSのAIで強化されたIP無線サービスのご紹介です。簡単にいうと、音声認識や音声合成の機能を組み込んだスマホアプリとなります。

設楽:ありがとうございます。まず、御社のAIのトライアルを旅館やホテルで開始された背景を教えてください。

香川:私が新規事業の立ち上げの際に、悩んでいたところ神奈川県の鶴巻温泉 元湯 陣屋様の取り組みをビデオやテレビで拝見し、感銘を受けました。その後、すぐにオーナー様に会いに行きましたが、それが最初のきっかけです。そこで、色々とお話をうかがってみると、スタッフ様同士のトランシーバーでの会話に課題があることが分かり、RECAIUSでお手伝いしたいと考えました。(→元湯 陣屋 様の事例

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現場の方にRICAIUSを使っていただくことにより始まった、新しいコミュニケーションの形

設楽:実際、現場で浸透させてみて、現場からはどのようなフィードバック(ご意見やご感想)がございましたか。

香川:とても感銘深い感想を現場の中居さんからいただきました。それは、「RICAIUSは良いですね、何が良いかというとインカムが外せるのが良いですね」というものでした。

設楽:インカムを外せると、おっしゃいますと…?

香川:RICAIUSフィールドボイスインカムは、音声認識機能で人の会話が可視化されます。旅館のスタッフの方は、まず目の前にいらっしゃるお客様との会話が重要です。フィールドボイスインカムを使うと、スタッフの方はインカムを外してお客様との会話に集中していただくことができ、その後で画面でテキスト化されたスタッフ同士の会話を見れば良い。

設楽:なるほど…よくインカムのイヤホンを浮かせてらっしゃるホテルのスタッフの方をよく見かけますね。目の前にいるお客様への対応を優先し、他の業務は後で戻れば良いという発想ですね。

香川:はい、その通りです。後で、業務に追いつけるということです。

設楽:確かに新人スタッフの方などは、先輩スタッフの会話を聞き漏らさずに常に聞いてなくてはならないという状況もありますね。そういう意味では、スタッフの方の心理的ストレスを軽減できる部分も大きいですね。

香川:私も現場の方が、いかに多くのストレスを抱えてお仕事をされているのだということに気づかされました。ホテル、旅館では、スタッフ同士で、“言った、言っていない”という問題も起きます。

リッチモンドホテル様にもRICAIUSフィードボイスインカムを使っていただいておりますが、清掃会社に何かを依頼する場合は、テキストでコミュニケーションを取るのが最も効率的で確実だとおっしゃっています。フロントからハウスキーピングの担当者に依頼をする場合は、目の前のパソコンからテキストで依頼を出します。現場の清掃担当者には合成音声で即座に通知されます。(→アールエヌティーホテルズ株式会社様の事例

設楽:確かにフロントの方は、電話やインカムよりもパソコンからの方がやりやすいかもしれないですね。

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香川:毎回清掃リーダーを携帯電話で追いかける必要もなく、パソコンから直接清掃会社の方に指示を出せ、清掃リーダーも後でテキストのやりとりを確認することができます。お互いのコミュニケーション上のストレスを大きく解消することができたとおっしゃっています。

設楽:話した内容がテキストとして残せるというのは、良い時代になったなと思います。また、テキストで打った内容も、音声となってインカムを通して伝わる。逆にハウスキーピングのスタッフの方が、掃除の合間にテキストで返信していたら業務負荷になってしまいますね。

フロントのスタッフの方ですが、目の前のお客様とは対面で接して、バックオフィスのスタッフとはテキストでコミュニケーションを取る。またハウスキーピングの方とは音声認識機能でやりとりができる。役割の分け方が素晴らしいですね

香川:新しいコミュニケーションの形が、現場の方にRICAIUSを使っていただくことにより始まったと思います。

現場の方が新しい道具で、新しいやり方を発見してゆく

設楽:私たちのTrustYouもそうですが、お渡ししたツールをどのように使っていただくかという点は、現場の方々の運用や方法に合わせてカスタマイズするのが重要だと思っています。また、本社の方がホテルの現場で何が起こっているのかをしっかり把握することは重要だと思っております

香川:はい、私もそう思います。実は弊社は経営者や支配人向けのワークショップも実施させていただいています。クラウドに蓄積されたインカムのデータから、スタッフの1日の業務の流れや、スタッフ間のコミュニケーションの流れを振返り、課題をあぶり出します。

設楽:データを可視化して、本社の方やリーダーの方が現場で何が起きているのかを把握し、改善点を分かるようになるのですね。

香川:なぜ現場でこのようなことが起きているのか、本社や経営陣の方もデータを元に現場の理解を深めることができ、また関係者が対等な立場でコミュニケーションを行うきっかけにもなっています。

設楽:他にリッチモンドホテル様からいただいたフィードバックなどはございますか。

香川:とてもありがたいことですが、現在では弊社のツールがないと現場が回らないとおっしゃっていただいています。以前は、フロントからの指示やお部屋の番号を、ハウスキーピングのスタッフが確認のために復唱しなくてはなりませんでした。フィールドボイスインカムでは、テキストで的確な指示が届くため、清掃担当者は、「了解しました」と返事をするだけで良くなりました。

設楽:指示された事柄を復唱しなくてはならないというのは、コミュニケーションの時間が二倍になるということですから、空いた時間ができれば他の業務や新しいことを生み出す時間が生まれますね。「当たり前のオペレーションを変えてみよう」と考えてみることは、これからの時代は重要になりますね

香川:一般的にお客様は「AIが人のために自動的に何かをやってくれるのではないか」という期待を持っており、そこから誤解が生じていると思います。やはり自らが新しい道具(ツール)を使うという意識が必要です。元湯 陣屋様やリッチモンドホテル様のように、現場の方が新しい道具で、新しいやり方を発見してゆくというのは、素晴らしいことだと思います。

インカムの会話データをAI分析し、チームワークを可視化する

設楽:ありがとうございます。香川さんは、AIはツールだとおっしゃっていますが、どのようにすれば、使いこなせるのか。そもそもAIとは何か。など、皆さんに伝えたいことはございますか

香川:今回ご紹介した事例で、ユーザー様が手に入れたデータは、インカムの会話データです。そのデータをAIで分析することで、社内のチームがどのようなチームワークで動いているかが明らかになります。

ちなみに設楽さんは、スポーツはお好きですか?

設楽:はい、もちろんです。私は、高校、大学とチアリーディング部に所属しおり、キャプテンを務めていましたので、チームワークは絶対だと思っています。

香川:最近、スポーツの世界でも選手の動きをタブレットなどで分析するという動きがありますね。東芝にもブレイブルーパスという社会人ラグビーのチームがございまして、ラグビーの世界では、以前から映像を活用してチームワークを分析する取り組みが行われています。

実際にブレイブルーパスのアナリストの方に、「実際に映像で何を見られているのですか?」と聞いてみました。すると、ゲームの中でキーとなるシーンを見て、シーンごとに選手の動きを分析しているとのことなのです。

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しかし、その作業をアナリストが手作業で映像にタグづけをするというのが一般的な方法だそうです。

そこで、 撮影した試合の映像を、画像AIにかけて分析する実証実験を行いました。AIによりチームを分類し、位置情報を元に、3次元の映像を2次元に変換する。そうすることで上から見たチームのフォーメーションを確認することができます。さらに、AIにアナリストが見たいゲーム内のシーンを学習させることで、見たいシーンを簡単に取り出せるようになる。アナリストは、AIのサポートを受けることで、より分析に集中することができます。

同じようにインカムで集めた現場のチームワークのデータを、RICAIUSの知識処理AIで自動的に可視化できるようになりつつあります。AIが可視化したダッシュボードに対して、業務の知見や知識を入れて、現場で何が起きていて、何を変えなくてはならないかを明らかにし改善に取り組む。そのような活動に役立つ新しい分析レポートサービスを開始しています。

例えば「チームワーキングスコアマップ」では、複数の施設のインカムの使いこなしレベルが可視化されます一般的に、このスコアが最適な施設は、TrustYouのスコアも高いという相関があることも判っています。

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また、チームメンバーの誰と誰が会話をしているかが「会話ネットワーク分析」で可視化されます。スタッフの会話参加率はどうか? 会話のキーマンは誰か?があぶり出されます。 さらに「会話特徴分析」では、大量な会話から特徴的なシーン(例えばハウスキーピングのトラブルケースなど)を抽出することもできます。

設楽:面白いですね。スタッフ間のコミュニケーションが雑になると、何回も会話が往復してしまうこともありますよね

香川:そのパターンは、「会話のラリー」という形で抽出できます。 また「きちんとやっておいてください」など、”きちんと”という曖昧表現などの多用も抽出できます。リーダークラスのスタッフはなるべく具体的な指示を出すのが良いとされています。

設楽:ベテランで、お互いの事を分かり合っている方がチームを組んでいる場合は、曖昧な会話でも大丈夫かもしれませんが、新人の方や外国籍のスタッフの方がいらっしゃる場合は、そのチームワークを分析することができますね

香川:ラグビーの試合中、指示を出す優秀な選手は、相手の選手の性格に合わせて指示の出し方や言い方を変えたりしているそうです。きっと、ホテルの現場でもそのような気遣いがあるかと思います。

設楽:現場スタッフの育成をどうするか。総支配人の方の役割なのかもしれませんが、本社側がチームとしてどう動かしたいのか、介入していくことも重要ですね

香川:このお話を経営者や総支配人の方にすると、すぐに理解していただけます。これまで、勘でやっていたことがデータで確認することができ、施設ごとになぜこのようなデータが出ているのか、背景をすぐにご理解いただけるようです。

設楽:何か課題がある仮説を立て、データを確認することで仮説が確信に変わって行くのですかね。データは事実なので、それに対して打ち手を講じていくと変わりますよね

香川:はい。その通りだと思います。

デジタルデータを、いかに現場でのお客さまへのおもてなしに活かすかという視点の重要性

設楽:最後にうかがいますが、今回のウェビナーのタイトルにもあります「DX」とはどのようなものなのでしょうか。データ活用におけるポイントを含め、お話をお聞かせください

香川:「アフターデジタル」という書籍をご存じですか。その本の中で、「ハイタッチ(人接点)」、「ロータッチ(人・場所接点)」と「テックタッチ(デジタル接点)」 3つの顧客接点が重視とあります。日本では、DXに取り組む時に、デジタル接点のみを切り出して取り組もうとすることが多いそうです。

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しかし、ホテル・旅館に当てはめると、やはり人や場所の接点という「現場」は、非常に重要ですよね。

AIにより入手できたスタッフのインカムの会話データや、TrustYou様のクチコミ分析データなどのデジタルデータを、いかに現場でのお客さまへのおもてなし(ロータッチ、ハイタッチ)に活かすかという視点を持つ。元湯陣屋様やリッチモンド様での取り組みは、まさにこの視点を大事にされているかと感じています。

これが、今回のテーマにもあります 「DX・データ活用によるES・CSの相互向上を通じて、戦略的なホテル経営にシフトするために」のポイントと考えています。

設楽:TrustYouのデータやRECAIUSのデータを見て、実際に施設内で何か起きているか、お客様が何をおっしゃっているか、テックタッチ(デジタル設定)として、ファクトをデジタルで確認しないと、戦略的に投資や改善、マーケティングを行うことは難しいかもしれないですね

何かをデジタル化しなくてはいけない、何かを効率化しなくてはいけないなどと、「DX」自体が目的となってしまうこともあるかもしれないですが、お客様のリアルな宿泊体験やロイヤリティを高めるためにデジタルを活用すべきなのですね。リアルの部分を磨くためにDXを活用することが重要ですね。

香川:そうですね。コロナ禍でなかなか旅行ができないからこそ、リアルの価値が高くなっていると思います。折角、やっと旅行ができるのであれば、良い体験がしたいですよね。

設楽:もちろんです。折角なら良い体験がしたいと思いますよね

香川:従業員体験(EX)も同じく。そこにデジタルを活かすという視点がとても大切だと思います。

設楽:今回は香川さんをお招きしましたが、私たちが、提供しているのはツールですので、宿泊をされているお客様がとう思われているのか、現場で何が起きているのか、実際の期待値と現実のギャップをファクトとして知っていただき、どう改善して行くかをホテルの皆様で考え、磨き込んでいただく。お客様とスタッフ、つまり人が中核となるビジネスだと思いますので、お客様とスタッフ両方の満足度が向上することが、選ばれるホテルになることは大切だと思っております。香川様、本日はありがとうございました

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